ほらほらコーヒーが冷めちゃってるよ 2

好きな人に伝えたいことはできる限り直接伝えます。都々逸作っています。浦和レッズと演劇と映画と音楽が大好き! 田島亮(・中嶋将人)、成河、亀田佳明、イキウメと浜田信也。演出家・藤田俊太郎を応援しています。小林賢太郎・片桐仁、ラーメンズは永遠に好き。B'z、BrandonBoyd&Incubus、JasonMraz、大橋トリオ、Eddie Redmayne

時間堂『廃墟』★★★★★ 

 すごく面白かったです。劇場を出てもまだワクワクしていました。『廃墟』というタイトルなので、もっと重い作品を想像していたんです。 いやぁーー面白かった!三好十郎さんの戯曲は『浮標』しか知らなかったので、この『廃墟』で2作品目。他は知りませんが、三好十郎さんって・・面白くて可愛げのある方だったのですね(多分)。でも・・『浮標』は読んでも面白かったけれど、『廃墟』は・・後半の男性たちが交わす議論は文字だと途中で読むのめんどくさくなっちゃうかもしれません(笑)でも、そこに女性たちがどう絡んでいるのか、どう描かれているのかが気になります。あと・・本の場合、あの犬小屋で寝てた浮浪者さんはどう書かれているんだろう・・気になるーーーーだって一言もしゃべらず、お台所にずっといましたから。
ポストトークで、敗戦後一年くらいに書かれた戯曲と聞いてびっくり。まだ復興のまっただ中ですもんね。戦後まもない設定が、この度起きた震災直後の今とだぶってしまいますが・・・ 女性たちの台詞が重いです。響きます。
とにかく2時間半集中できたのは、演じる皆さんの上手さもありますね。表情もですが、皆さんすごくきれいな日本語を声にしてくださるので、ほんとに心に響きます。陰翳を上手く使った照明も好きでした。
黒澤世莉さんの演出も好きでした。後半あからさまになる男と女の違いが可笑しい…女は現実的。男たちがワーワー議論している傍らでしっかり最低限だけど生きようとしていました。建てたばかりで大工さんへの支払いも残っている家を失い、廃墟の中の部屋を借りて暮らしている家族の男たちは自分勝手。その傍らのお台所から聞こえてくる生活の音がいいです。そんな男たちにお水やお茶を出したり、夕ご飯の支度をする音。野菜を切る音、斧で薪を割る音が聞こえてきます。そう、議論じゃ食べていかれないですもんね。ワーワー言い合って取っ組み合いになって、最後に斧なんか振りかざしちゃって・・よけいお腹空いちゃいますよね。男って・・σ( ̄∇ ̄ )って感じ。←そうさせてしまった戦争が悪いんですけれどね。
『そんな事をワイワイ議論したって、なんになるの? 大事な事はそんな事じゃない! 私たちにいり用なのはそんな事じゃないわ! もっとズット、ズット、ズット、なんでもない事よ!』(*)
娘の双葉がこう言います。家族のために明るく献身的に色々我慢してがんばっています。浮浪者に蒸かしたパンを盗み食いされて、ドッカーンと箍が外れます。ギリギリなのは女性だけではないのですが・・そのうち苛立つ男たちが爆発、議論になっちゃうんです。(白熱した彼らの言葉が、みな一方通行でなんだか儚くて・・私は可笑しかったです) 
黒澤世莉さん、金曜に観に行くことになっているお芝居のアフタートークに出られるそうで・・黒澤世莉さんを知らなかったので偶然なんですが、ラッキー!!  と思ったらマチネのゲストでした。ざんねーん。
 アンケート用紙などと一緒に「廃墟」用語集がついていました。すごく嬉しい配慮ですね!!
  あさのさんみたいに撮りたかったんだけど失敗。

「廃墟」について 三好十郎 http://www.aozora.gr.jp/cards/001311/files/49854_34059.html
『何か今までとは縁もゆかりも無い妙な事が始まる。しかしそれがどんな事やら、まるでわからないし、わかりたくもない。……強いて言えば、そういう気がしながら、子供が泣くように泣いていた。』
『答えは見つかったか? ごらんの通り、見つからなかった。廃墟のガラクタが、叩きこわされたままの姿で口をあけ投げ出されているだけにとどまった。私には、そこまでしか突っこんで行けなかった。』
青空文庫 『廃墟(一幕)』 http://www.aozora.gr.jp/cards/001311/card49718.html 長い一幕です。二幕はなし。

(*)双葉『(非常な早口で叫ぶように)よして頂戴! よして頂戴! お父さんも誠兄さんも、みんな、もう、そんな、よして頂戴! なんなのそんな! そんな事をワイワイ議論したって、なんになるの? 大事な事はそんな事じゃない! 私たちにいり用なのはそんな事じゃないわ! もっとズット、ズット、ズット、なんでもない事よ! 自分と同じように人の事を考えてあげる事だわ! 人の言う事もよく聞いて人の立場も認めてあげる事だわ! 隣りに居る人を信用する事だわ! 信用できるように、私達が人とした約束を守ることだわ! そいで、みんなみんな、仲良くやって行く事だわ! そんな事よ。私たちにいり用なのは!それが無くなったから戦争なんかが起きたのよ! 兄さんやお父さんなどのような、いくら議論したって私たちになんの役に立つんですの? こうしてメチャメチャになってしまって、なんとかして立直ろうと一所懸命になっている、たくさんの人達とは、そんなの、離れてしまっているんだわ! 浮きあがってしまってるんだわ! たくさんの私達にいり用なのは、学問や議論じゃない。誰にもわかって、納得出来て、そしてこんどこそグラグラしない、たよりになる、平凡な事なのよ。兄さんが正しいかお父さんが正しいか私にはよくわからない。しかし兄さんやお父さんも、私達をよくしようと思っていらっしゃる事は、わかる。そいでいて私達から浮き上ってしまってる! そいだから、そんなだったから――良い、立派な人達の考えたり言ったりする事が国民のみんなから浮き上ってしまったから、戦争なぞ起きてしまったのよ。私そう思う。私達はもう、あんな事を繰返したくないわ、繰返すのは、ごめんだわ! シャンとして、すなおに謙遜に、卑屈にならないで、誇りを持って、勇気を出して立直って行かなくちゃならないのよ! だのに、そんなワイワイワイワイばかり言って! はずかしいわ、私達は! はずかしい――(ヒステリックに泣き出してしまう)』