シス・カンパニー「RED」劇評(谷岡健彦さん)『生々しさ、「場」の共有を演出』『ある日の議論で、自分の絵には「場」が必要だというロスコの言葉を聞き、ケンは、たしかに具象絵画とは違い、抽象絵画は鑑賞者の積極的な参加なしには生気が宿らないと納得する。このやり取りの裏に込められているのは、作者ローガンの演劇観だろう。テレビや映画とは異なり、演劇もまた観客の積極的な関与によって生気を帯びる芸術なのだ。事実、本作の大きな魅力は、ロスコが自説をまくし立てつつ啜る麺の音、実際に画布一面に絵の具を塗った後の2人の荒い息遣いなど演劇ならではの生々しさが、俳優と同じ「場」を共有していると観客に実感させてくれる点にあった。』『小川の演出は丁寧に戯曲の行間を掘り起こし、田中も小栗も実直な演技でそれに応えている。ただ、劇の冒頭でロスコの絵を舞台奥に出していたが、ここは戯曲の指示通り舞台前面と客席の間に吊った想像上の画布を観客の心眼に「見せる」方が演劇的でなかったか。また、第3場の結びにあるロスコの台詞の中の旧約聖書の章句をあまりに砕いて意訳したのは、作品の底を浅くしている。』
トラッシュマスターズ「そぞろの民」劇評(山本健一さん)『家族の混迷に映る現代日本』『中津留章仁が書き、演出した「そぞろの民」は、老人の自殺で始まり、もう一人の死で終わる3日間の物語。政治や歴史、ジャーナリズムを巡る言葉は時に自明で説明的だ。しかし通夜の席で愛憎が露わになり、日本人の根に深く届く。』『登場人物の混迷は、日本と日本人の欺瞞を反映する。父が、現実主義者の次男(星野卓誠)に抱く悲哀濃い批評は、空気を読む協調性が、真の対話を妨げている日本人の心性をえぐる。』『高橋の台詞の高低、間の良さ、星野の起伏ある演技、倉貫のナイーブな人間味がいい。最初にチラリとしか登場しない父が、ドラマ全体を引っ張る強力な磁場になる仕組みが面白い。』『女性の理知と優しさが男たちを包む。毅然とした川崎初夏、しんの強さを見せる飯野遠が脇を締める。吹上タツヒロ、カゴシマジロー、森田匠、長谷川景、森下庸之と粒ぞろいの俳優は小劇場の魅力を見せて輝く。』
明日観に行きまーーーす。