『らんまん』を不朽の名作にした阿部海太郎の劇伴 そっと彩りを添える音楽の素晴らしさ(記事:苫とり子さん)
「多くの人が本作を評価する際に「上品」という言葉を使用するのは、こういうところなのだろう。多くを語らずとも、登場人物一人ひとりの思いが水の波紋のようにじんわり伝わってくる脚本や役者の演技が品を醸し出している。そこに、さらにさりげなく情緒を乗せているのが劇伴だ。作曲家・阿部海太郎が手がける本作の劇伴は限りなく無駄が省かれた、控えめでいて聴く人の想像力を掻き立てるものばかりである。」
「そのルーツになっているのが、舞台音楽。特に阿部は2008年の『リア王』以降、長きにわたり故・蜷川幸雄氏が演出するシェイクスピア作品の劇音楽を手がけてきた。劇中でシェイクスピア研究に励む丈之助(山脇辰哉)が「西洋の文学は生身の人間を描こうとしている」と日本文学の勧善懲悪を否定していたが、そうした単純明快ではない物語を音楽で彩ってきた経験が本作でも活かされているのだろう。悲しい場面で悲しい音楽を、楽しい場面で楽しい音楽を。そうした単純な図式ではなく、阿部はピアノや弦楽器、マンドリンやエレキギター、ケルト楽器など、多彩な楽器を用いた音楽で物語に深みをもたらしてくれる。」「
多くの人の印象に残っているのが佑一郎(中村蒼)が登場する際にいつも流れているBGMだろう。サウンドトラックには未収録ではあるが、映画『ライオンキング』を彷彿とさせる壮大な音楽は佑一郎が相手にする自然の大きさを物語っている。」
『らんまん』の構成力には驚くばかり 天才と“凡庸”を描く『アマデウス』に重なる作劇(文=成馬零一さん)