(回顧2015)演劇 生誕80年、蜷川・寺山に光(山根由起子さん)『戦後70年の演劇界では、同じ1935年生まれ、80歳の巨匠・蜷川幸雄と、異才・故寺山修司の2人の作品や、反戦をテーマにした新作の上演が相次いだ。蜷川は、意欲的に海外公演や新しい演出に取り組んだ。村上春樹原作「海辺のカフカ」はロンドンやニューヨークなど国内外5都市で上演。「巨大なアクリルの箱に納hand.pngめられた様々なセットによって複雑な物語が表現されている」(英紙ガーディアン)など、海外紙から称賛を得た。シェークスピア作「ハムレット」(藤原竜也主演)は古い日本の長屋をセットで用いた。』『寺山の作品も多くの劇場、劇団で上演された。蜷川演出の音楽劇「青い種子は太陽のなかにある」(亀梨和也主演)は松任谷正隆が音楽を手掛け、青春のみずみずしさを表現、絵画のような舞台美術も特徴的だった。。』『アングラ色満載の71年の寺山の映画版「書を捨てよ町へ出よう」を主体にした同名の舞台に「マームとジプシー」を主宰する30歳の藤田貴大が挑戦。上演台本と演出を担った。人物はカラフルなブランド服で登場、スタイリッシュな舞台になったが、寺山が放った青春の垢(あか)にまみれたような恥ずかしさや泥臭さ、猥雑さは薄まり、無機質な雰囲気を醸し出した。』『戦後70年をテーマにした演劇も話題になった。 〜
劇評はシアター風姿花伝「悲しみを聴く石」中東の物語、巻かれゆく紗幕(大笹吉雄さん)『戦闘はまだ続いていて、しきりに爆撃音が聞こえてくる。そんな中で女は過去を振り返り、夫に問わず語りに不満や怒りなどをぶつける。そうするうち、夫の父から聞かされた話を思い出す。自分の前に石を置き、それに向かって自分の不幸や苦悩や秘密などの一切を話す。石は黙って聴いていて、ある日砕け散る。女は夫がその「石」だと思う。そんな時、戦闘服の若い男(清水優)が乱入して来る。女は身を守るために思わず自分を娼婦だと言う……。』『前面に紗幕を張った舞台をコの字型に囲んで客席が設けられていて、女が石の話を口にすると、それが巻かれていく。舞台のポイントがここにある。』『一応は遠い中東の物語であるのをこの紗幕は表している。観客との距離。が、女の話がどんどん夫婦生活の側面に傾いていき、若い男の出現で女は「女性」をさらし始める。眼前の物語が男と女の、人間の命の次元に移行する。つまり、それはわれわれ自身の話でもある。だから紗幕という距離が消える。』