讀賣新聞に『尺には尺を』の劇評は(野口恵里香さん)「蜷川の遺作 貫く爽やかさ」
「蜷川が病床で練った装置は7枚の巨大パネル。色欲、高慢などのキリスト教の七つの大罪が描かれ、人々にのしかかる宗教観を印象づける。物語は信仰を背景にエゴがぶつかり合う。修道女見習いのイザベラは純潔を守るため兄に死を覚悟するよう言い放ち、兄は妹にアンジェロと寝るよう頼む。」「だが、全体を貫くのは爽やかさだ。多部は聡明で純粋。信仰への一途さゆえ兄との場面もあっけらかんとして笑いを誘う。藤木は真面目な人間がふとした拍子に悪に転じるさまを丹念に見せた。辻のおおらかさがむちゃな展開も納得させる。全体的にからっと笑えた分、より重層的な人物造形を見たいと思うのは贅沢か。」「序盤と幕切れで純白の衣装のイザベラが走り出て、腕から鳩が羽ばたいた。自由な魂が空に昇っていく情景はすがすがしく、最晩年の巨匠の解放された心を見るようだった。鮮烈な視覚表現、猥雑で生き生きとした市民の姿は蜷川のDNAが引き継がれていることを示した。演出補の井上尊晶ら、特徴を知り尽くしたスタッフの頑張りもあっただろう。蜷川が育てた若手劇団の松田らも、しっかり存在感を放っていた。」
毎日夕刊も『尺には尺を』の劇評(濱田元子さん)「問題劇に響く現代性」
「シェークスピア全37作品の上演を目指すシリーズの第32弾。12日に亡くなった蜷川幸雄最後の演出作品となった(井上尊晶演出補、松岡和子訳)。権力と正義、罪と罰といった容易に割り切れないテーマをはらみ、問題劇とも言われる“喜劇”。為政者に対する不信が募るなか、現代性が響くのが面白い。遺志を継いだ辻萬長、多部未華子らが一筋縄ではいかない物語に息を吹き込む。」「国外に行くと見せかけ、実は修道士に変装して、権力がどう人を変えるか観察しようとする公爵。身勝手ともいえる為政者ではあるが、辻は慈愛あふれる包容力と軽妙な味わいで、うまく笑いへ着地させる。多部のイザベラは清らかで頭脳明晰。セリフもよく、アンジェロを引きつける魅力にあふれる。藤木は冷厳になりすぎず、弱さを出した。」「大石継太のルーチオが小気味いい。松田、マリアナの周本絵梨香ら、蜷川が育てたネクスト・シアターメンバーの活躍も頼もしい。」
「新宿の文化史たどる「あゝ新宿」展、蜷川率いる現代人劇場の舞台映像も」
「「あゝ新宿−スペクタクルとしての都市」が、早稲田大学演劇博物館 2階企画展示室にて8月7日まで開催されている。本展では、蜷川幸雄らが立ち上げた劇団・現代人劇場「想い出の日本一萬年」の舞台映像や、大島渚の映画作品「新宿泥棒日記」を上映。写真やポスターなどの資料から新宿の文化史をたどるとともに、磯崎新による新都庁案を手がかりに新宿の未来像を構想する。」
2016年5月28日(土)〜8月7日(日) ※6月1日、6月15日、7月6日、7月20日は休館
東京都 早稲田大学演劇博物館 2階企画展示室 http://natalie.mu/stage/news/189095