早退して新国立劇場小劇場にて『友達』観劇。
劇団た組の「在庫に限りがありますが」で知ってから何本か観てきて、今年NHKで「きれいの国」で全国区になった加藤拓也さんですが、安部公房に加藤拓也さん味がプラスされた現代版「友達」(上演台本が加藤さん)は、より気持ち悪くて怖くて笑えない。ドアが真ん中にある床(壁じゃなくて床に)、伊藤雅子さんの美術もすごい。上演時間1時間30分の短さなのに、それ以上長いと精神的に辛い長さ。C4列で。
一人暮らしのKを孤独だと決めつけてお節介してくる9人の「闖入者」。彼らの言う親切を受けないことを選べないK。共同生活を強いられ監視される。
Kが相談しにいった弁護士みたいに(弁護士は13人の闖入者を受け入れた)受けいれると楽になるのか?いやだ、倉庫で寝たくない。
自分以外のその他の大勢が勝手に進める多数決、それを民主主義だとまるめこまれ反論の余地がない。=そこに多様性はない。
Kに「友達」と言っておきながらKの存在を無視… いや無視はしない、ただKの言い分は一切聞き入れず、Kに寄生して、その知らない集団がエスカレートしていくのが怖い。
Kが鈴木浩介さんだと気づくのにけっこう時間がかかりました。個性のないどこにでもいそうな、でも婚約者もいるから孤独感はない、そんな普通の男が蟻の穴に落とされた感じ。順応していったように見えたけれど、諦めたわけではなかった。素晴らしかった。辛かった(T ^ T)
父(山崎一さん)が決める民主主義はその家族には絶対で、多数決でKに理不尽な要求を普通にしてくる。
大家さんも警察も真面目に取り合ってくれないのはわかるけど(事件が起きていないから)、彼女でさえ聞いてくれない。いえ、彼女にうまく説明できないK。
長男(林遣都くん)の得体の知れない暴力性感が怖い。でも、優しそうなイケメンなので、まさに「息を吐くように嘘も吐ける」タイプ。
三男(イキウメの大窪人衛くん)アラビア語を練習しているとかでKに近づいてきたとき仲良くなれるかもと思ったけれど…。
次女(有村架純ちゃん)という心の優しい味方を見つけ、いつの間にかその生活に慣れたように見えたとき…
「さからいさえしなければ、私たちなんか、ただの世間にしかすぎなかったのに」
次女は、これまでも家族(世間)で誰かを救おうとする毎に同じことをしてきたのか。
怖い怖い、確かに私(もはや彼ではない)は誰かにお金の管理をしてもらった方が良いタイプだと思うけれど(笑)
Kが助けを求めた人たちがつけているロープは世間との繋がりのメタファーなのだろうけれど、なんて窮屈なの?でも、私も見えないロープで世間と繋がっていて、それがなかったら本当に孤独を感じるかもしれない、とふと思う。
あらすじ「ある夜、ひとりの男(鈴木浩介)の日常に忍び寄る、見知らぬ「9人家族」の足音。祖母(浅野和之)、父母(山崎一・キムラ緑子)、3人兄弟(林遣都・岩男海史・大窪人衛)、3人姉妹(富山えり子・有村架純・伊原六花)から成る9人家族は、それぞれに親しげな笑みを浮かべ、口々に隣人愛を唱えながら、あっという間に男の部屋を占拠してしまう。何が何だかわからないまま、管理人(鷲尾真知子)、警察官(長友郁真・手塚祐介)、婚約者(西尾まり)、弁護士(内藤裕志)と、次々に助けを求め、この不条理な状況説明を試みるが埒があかない。しかも、彼らは、どんどん「家族の論理」に加勢していく流れに…。「9人家族」の目的は何なのか?どこからが日常で、どこからが非日常なのか?男を待ち受けるのは、悲劇なのか、はたまた救済なのか?たしかに新型コロナウイルスのせいで日常が奪われ、国が決めたことに従うしかない日々。」
近くの席にいた女性ふたりが「複数回観るの辛い」と言っていた。林遣都くんのファンかな?良い悪いではなく主人公に共感しちゃって怖いから私も一回で十分お腹いっぱい(辛くて吐きそうお)。でも配信は観たいかも。
安部公房『水中都市・デンドロカカリヤ』「狂っているのは、私か世界か。人間存在の不安感を描ききった世にも奇妙な11編」戯曲「友達」の原型となった「闖入者」が収録されている(新潮社)
『友達』東京公演でライブ配信あります。
【配信日】2021/9/25(土)14:00開演と18:00開演
【アーカイブ視聴期間】2021/9/27(月)23:59まで
【視聴料金】¥3,000(税込)
アーカイブがあるのは嬉しいから見ようかな〜。
9月16日追記。イキウメの前川さんのTweet。
「鈴木浩介さんが素晴らしい。家族も個性的な俳優そろえて、でも過剰なこともさせずに贅沢な舞台。こういうのがいつでもかかってるといいな。」
ほんと、これです。すごく贅沢な舞台でした。