ほらほらコーヒーが冷めちゃってるよ 2

好きな人に伝えたいことはできる限り直接伝えます。都々逸作っています。浦和レッズと演劇と映画と音楽が大好き! 田島亮(・中嶋将人)、成河、亀田佳明、イキウメと浜田信也。演出家・藤田俊太郎を応援しています。小林賢太郎・片桐仁、ラーメンズは永遠に好き。B'z、BrandonBoyd&Incubus、JasonMraz、大橋トリオ、Eddie Redmayne

新国立劇場『音のいない世界で』1回目★★★★ 


 新国立劇場 小劇場 THE PIT。2013年初観劇です。
ちょっと毒をふくんだ絵本のようなものがたりでした。暖炉もない貧しい夫婦(旦那さん:首藤康之、奥さんセイ:松たか子)の家に忍び込んだ泥棒兄弟(兄:近藤良平、弟:長塚圭史)が盗んだものは?
 ものがたり『ある冬の日、大切なカバンを 盗まれてしまったために「音」を 失ってしまった貧しいセイ。 カバンを 取り戻そうと ひとり旅に出る。 カバンを 盗んだ男の足跡を追って 季節を まわるセイ。 セイが いなくなってしまったことで、夫もまた「音」を 失ってしまう。 夫は セイを追って 旅に出る。 セイの歩いた 季節を たどる夫。 果たして 2人は 再び めぐり会えるのか。 また 失われた「音」は 取り戻すことが できるのか。 そして 盗まれた カバンの 中身とは いったい? 季節をもめぐる不思議な 一夜のものがたり。』(フライヤーより)
 ちょうど私の隣りは2人の小学生兄妹でした。子どもにどうかな?と思って観ていたのですが、その子たちは体を前に乗り出し見入っていました。子どもたちがケラケラ笑う場面は少なかったですが、しんと静かな夜に絵本のページをめくっていくようなお芝居でした。パンフレットにある16のタイトルがわかりやすいので、パンフレットを買わないひとのためにコピーでも配られたらいいのにって思いました。
 
     以下、ネタバレしています。
 
貧しい夫婦の家にあるカバンには円盤を回すと音楽が流れる機械が入っていました。仕事で疲れたセイが眠ってしまったので旦那さんは(お給料日だったのかしら?あ、クリスマスプレゼントですね。)新しい円盤を買いに外に出ます。そこへ泥棒兄弟が・・。探していたものは、そのカバンの中にあったようです。セイを起こさないようにしてカバンを盗み、もっていたそっくりなカバンを置いていきます。そのとき泥棒弟はもうひとつ盗んだものがありました。
何が盗まれたかわからないけれど、とりあえず「何か」を探す旅に出るセイ。家に戻った旦那さんですが、自分がなぜリボンをかけた円盤を持っているかわからない様子。奥さんがいたことさえ忘れている様子。でも「何か」を探す旅に出ました。
べつべつに歩き出した彼らは、同じように何かを失ったひとたちに出会い、そこで見つけた「♪」をひとつひとつたどってゆくのです。
最初に出会う目の見えないおじいさんとおばあさんは、経営しているお店の電動ドアから「何か」がなくなったようです。穴を掘る男は小鳥たちが自殺を志願するので穴を掘っていました。男とセイのやりとりに気を取られていたら・・気づいたら「何か」を失った小鳥たちがわんさか・・ああ、みんな歌う歌うことを思い出せず死にたくなっちゃったのね。
と、このあたりで私がちょっぴり思い出したのはイキウメの『散歩する侵略者』です。で、このものがたりの町からいくつもの「音」=「たいせつなもの(おおげさに言うと生きる希望みたいな)」という『概念』が盗まれたんだわって・・。だから、何を失ったか思い出せないんだね。セイも、旦那さんも、小鳥たちも、指揮者も、兵士も・・。
「音」を盗んだ泥棒兄弟の弟は、夫婦の家からもうひとつ盗んだものがありました。夫婦をかたどった人形のセイのほうです。なんで盗んでしまったのか・・その弟は「愛しい」と思う『概念』を手にしたんだと思いました。←私、イキウメられすぎですか?

 こんなふうに物語のページがめくられていきます。カバンからたまに音楽がもれてくる以外、音楽が全く流れていないので「間」の取りかたとか大変そう!舞台で「盆」が回るのですが、まんなかより少し奥に仕切る壁(たくさんの窓)があり、後ろ向きで回っていくときは両はじにあるドアにぶつかならいようにするのが大変だって昨日言っていました。舞台の周りには溝があり、泥棒さんたちはそこを歩きます。そうするときゅっきゅって足音が・・「ヘチマロン」という黒いくるくるしたものが敷き詰められていました(http://www.shinko-nylon.co.jp/mizusyori/index.html)。それらの下にはカラフルなソノシート(風な紙)たち!
 そんな素敵な美術は、文学座の乗峯雅寛(のりみねまさひろ)さん。美術スケッチ画が飾られていたのですが、すごーーーーーい綺麗です。こんなたくさんのアイディアがあって、結果シンプルな美術ですが、ひとつひとつの場面はこういうイメージでした。『モジョ ミキボー』『イロアセル』『千に砕け散る空の星』『海の眼鏡』なども乗峯さん!
昨日のトークでお話されていたのですが、近藤良平さんは以前「野鳥の会」に入っていたくらい鳥好きで、今回の小鳥たちやフクロウは近藤さんの案なんですって。そんなふうにこの舞台は全員で意見を出し合い作っていったそうです。だから壁の後ろの方々、照明さん、音響さんなど忙しそうです。
 可愛らしい衣装は伊藤佐智子さん。 
あ、長塚さんが踊っていました(笑)長塚さんの背丈、長い手足がもうファンタジーだな・・と思いました。近藤さんと首藤さんは踊らないぶん言葉を話すことがとても大変だったそうです。踊りませんがさすがダンサー、動きにいちいちキレがありました。
大好きな松たこちゃんはもうスバラシイ!!可憐でキュートでクリアで・・とにかくスバラシイ!声は美しい鈴の音のようですよね!(ミュージカル以外の松たこちゃんは観ているのですが・・。いつかミュージカルにも行ってみようかしら・・)松たこちゃんがおしゃべりするとまわりに♪が舞うような・・そんな声。いいなぁ〜。←『オイル』以来何度も舞台で観ているのにこんなにも思うのは、音がない静寂の世界にその声があるからかな?
「誰かを思い出して悲しくなっちゃうのね」ラストにいくところがちょっとわかりにくかったけれど・・。最後の「静寂の夜明ける」ページがとてもステキでした。旦那さんとセイは、セイの言葉で「思いさせなくなるほうが」悲しいと気づいた兄弟から戻ったカバンを開きます。そこにあるレコードに針を落とすと音楽が流れ、セイが歌いはじめる。小鳥のさえずりが聞こえはじめ、静かに「音」が戻っていきました。大切なひと、大切なものが戻っていきました。
その歌は「♪記憶(とき)のうた」:「♪蛍の光/Auld Lang syne」のメロディで、長塚さんが作った歌詞で歌われていました。あたたかな詞でした。♪きみのぬくもりを夢にとかす
ただ・・・セイと旦那さんがふくろうさん、兵士さんたち、羊飼いさん・・と道を戻らなかったことはちょっぴり残念。小鳥のさえずりが聞こえてきて町に音楽が戻ったのはわかったけれど・・「え?戻らないの?」と思ったもの。あと10分伸ばして道を戻ってもよかったんじゃないかしら〜と思いました。
  さんざん書いたけれど、もう一回観にいくのでまた〜。違う何かが見つかるかもしれませんしね。