ほらほらコーヒーが冷めちゃってるよ 2

好きな人に伝えたいことはできる限り直接伝えます。都々逸作っています。浦和レッズと演劇と映画と音楽が大好き! 田島亮(・中嶋将人)、成河、亀田佳明、イキウメと浜田信也。演出家・藤田俊太郎を応援しています。小林賢太郎・片桐仁、ラーメンズは永遠に好き。B'z、BrandonBoyd&Incubus、JasonMraz、大橋トリオ、Eddie Redmayne

『春琴 Shun-kin』再再再演 日本(東京)3回目/千秋楽★★★★★ 

 お腹鳴ってしまわないように。
 
 今日が終わったらシンガポール、ミシガン、ロサンゼルスへ。
なにからどう書こうか・・・凄かったから多分伝えられないけれど、どう文字に残しておこうか迷うなぁ。とにかくこのお芝居が観られる今に生きて、観られる環境に自分がいたことにも感謝。ありがとうございました。
『研ぎ澄まされた舞台空間で、濃密で重層的に物語が展開』って、まさにこういう舞台を言うんだろうな。
[演出] サイモン・マクバーニー
[作曲] 本條秀太郎
[美術] 松井るみ+マーラ・ヘンゼル
[照明] ポール・アンダーソン
[音響] ガレス・フライ
[映像] フィン・ロス
[衣裳] クリスティーナ・カニングハム
[人形製作] ブラインド・サミット・シアター
[プロダクション・マネージャー] 福田純
[プロデューサー] 穂坂知恵子+ジュディス・ディマン
[出演] 深津絵里/成河/笈田ヨシ立石涼子内田淳子/麻生花帆/望月康代/瑞木健太郎/高田恵篤/本條秀太郎(三味線)
始まり終わりまた始まる。冒頭で谷崎が探しにいった鵙屋琴の墓、そのほんの少し離れた低い場所に位置する佐助の墓。その墓標を読む谷崎の声。その同じ場所で小説が終わり、世界が今に戻るとき、一竿残された三味線が壊されて幕が閉じます。今夜はいちだんとその潰れる音が大きくて、より胸が打たれました。
鳴り止まない拍手と歓声。カーテンコール、何回あったんだろう・・10〜12回?後ろは見ていないけれど、多分ほぼ全員のスタンディングオベーションだったんじゃないかしら。春琴ちゃん(お人形)も出てきました。何回か佐助@成河くんと手を繋いで・・そして春琴@深津ちゃんと成河くんの真ん中で白くて小さなお手手をひらひら振ってくれました。アメリカから来ているスタッフのみなさんも出て来てくれました。世田谷で生まれた春琴、もう一度世田谷に戻ってきてくれてありがとう。
  
2回目 http://d.hatena.ne.jp/Magnoliarida/20130806/1375804034
1回目 http://d.hatena.ne.jp/Magnoliarida/20130801/1375371900
 
今日は上手3列目。なので執筆する谷崎潤一郎(瑞木健太郎さん)の真ん前、変態瑞木さん・・じゃなく変態谷崎センセの少しこどもっぽい仕草や春琴の作者としてのその物語への入り方の妙(物語を綴りながらご自分も物語に自在に入り込んでいくのです)の楽しいこと!少し意地悪でいやらしいこと!(笑)そういった演出の全てに意味があるのでしょうね。
その奥には三味線の本條秀太郎先生。本條先生の撥さばきや歌声、弓で弾き胡弓となる三味線、棒を見立てた襖を開け閉めするシューッ、シューッという効果音や足音にもなる三味線も堪能(襖も棒のみで表現)。「春琴」の音楽は全て本條秀太郎先生です。
最初に、大阪淀屋橋・鵙屋の丁稚となる13歳の佐助が登場するときの歌は佐助の故郷江州(現:滋賀)の民謡(お米豊作の)だそうですが、たとえば、劇中で佐助が歌う曲。夜な夜な隠れて三味線の練習していた丁稚の佐助、物干し台でこっそりではなく大胆に練習*してしまい春琴の母に見つかり鵙屋家人からお咎めを受けたあと、春琴に「弾きなはれ」と優しい声で強要されたとき(こいさんの助け舟に嬉しそうな佐助)の三味線の歌「源氏物語より『♪夕顔』」と、春琴と佐助が性交描写場面(『単なる被虐趣味をつきぬけて、思考と官能が融合した美の陶酔の世界をくりひろげる。』春琴抄)で歌われた「オリジナル曲、閑吟集より『♪恋の袂(たもと)』」。20歳になった春琴が師匠の死を期に独立(佐助も同行)した春琴のところに訪れた音痴なお弟子さんが歌った「古典端唄の『♪淡雪』」の歌詞。それらの曲にもきっとその場に必要な意味があるので調べたいと思ったのですが、曲はもとからある古典の曲を本條先生が舞台用にアレンジし、オリジナルの歌詞をつけたそうです。そんなふうに全てに意味があり、途中で2回ほど三味線が胡弓の音に変わったことにも意味があったようです。友人に聞いたのですが、「歌舞伎で胡弓を奏でるときは相手を想って嘘をつくとき」なんだそうです。すごいなぁ。そうやって細かくひとつひとつに多くの時間を話し合いに費やし丁寧に作られた作品なんだなぁーーーとつくづく思う。**
       曲と場面、合っているかな?
(*漆黒の闇に風が流れ、はらはらと舞う白い花のような雪のような・・なかひとり、夜な夜な三味線を弾く佐助の背中が美しいです。右の肩甲骨の動きで弾いていることを遠くからでもわかるように見せている、その背中に春琴への想い、色気を感じずにいられませんでした。)

追記:本條秀太郎先生インタビュー http://performingarts.jp/J/art_interview/0901/4.html
『主人公が死ぬ、あの唄が『春琴』のひとつのテーマになっているように思います。あの唄を日本人が聴いた時に、地歌という意識で聴いていただいてもいいし、普通の三味線の、普通の音楽として聴いていただいてもかまいません。』
『舞台って多分、観客が想像力を広げるための余地を残しておかなければいけないんじゃないでしょうか。演じる側が100パーセント出し切ってはダメで、観客と一緒になってつくる。』 

そのお弟子さんを手助けした佐助を罵倒し叩く春琴。独占欲でしょうか・・かなりヒステリックに焼きもちを焼き、このときまで人形***だった姿から生身の人間の姿に入れかわる演出がされています(***浄瑠璃の形。子供時代はほんとうのお人形。大人になった人形を演じるのはお面をつけた内田淳子さん。人形は春琴ですから深津絵里ちゃんが望月康代さんとともに黒子となり操ります。声はもちろん深津ちゃん)。直前に2回ほど激怒した深津ちゃんが人形を手放し客席の笑いを誘う経過があり、そして手足をばたつかせ気持ちを露にした春琴人形が生身の深津ちゃんに入れかわったとき私の涙腺崩壊 (T^T)。そこからもう涙ぼろぼろ (T^T)(T^T)・・だってすぐに春琴は佐助を手探りで探すのですから・・そしてすぐに「ここにおりますよ」といつも通り優しく応える佐助 (T^T)(T^T)。
 
そう言い忘れましたが、俳優たちが弾く三味線は全て棒。傍らで演奏する本條先生の音に合わせて弾くのです(エアー三味線!)チューニングの音も撥の動きもピタリを合っているのです。襖を開けるの音も同じ、襖は棒で俳優たちが鮮やかに動かします。その音が本條先生の三味線。
失明した春琴と佐助の出会いの場面。春琴は佐助をちょうどいい玩具のように思っていたんじゃないかと思っていたのですが、誰でもよかったわけではなく、きっと小さな手が手に触れたとき、はじめて佐助の頭にさわったときにふたりの運命の糸は繋がったのだろうと思いました。
  
**『演じ手が自らの肉体をもって、どう血の通った世界観を作り上げるかということ。サイモンの要求はものすごく高度』『最初に脚本があるのではなく、原作の小説を何度も読み込んで、キャスト全員で場面ごとにいくつもの“ピース”を作ってから、それを組み合わせていくのがサイモンのやり方』http://md-news.pia.jp/pia/news_image.do?newsCd=201305020007&imageCd=0
 
「(春琴は)生理的必要品として彼(佐助)を見ていたんじゃないだろうか」と谷崎センセ。
「私たちってさぁ・・生理的必要品?」と年下の恋人に聞くナレーター(立石涼子さん)*そういえば、立石さんの「じぇじぇじぇ」は東京だけだったみたい。サイモンが来ていたらあったかしら?笑
 
以前書いたので端折っていましたが、この舞台は笈田ヨシさんご本人の思い出話からはじまります。生まれた年に谷崎が『陰影礼賛』と『春琴抄』を書いたこと、父が亡くなって50年。そこで春琴のお墓参りに行ったこと。それが父の50回忌の話と重なっていき、子供時代に思いをはせ・・春琴のお墓を訪ねていく谷崎自身にスイッチしていく。その昭和8年に時空を超えると同時に笈田さんが佐助に・・。
暗転があり、電車が駅に到着したような音のあと、2013年に(←震災後だということ、「あまちゃん」放映中だとわかることから)。場所は、NHKのラジオドラマとして立石涼子さんが『春琴抄』のナレーション録りをする真っ暗なスタジオに。

二重三重の構造がとてもおもしろいです。観客の私たちはナレーター立石さんのナレーションが入るラジオドラマを聴かされて(観て)いるの。そのお話の語り手は谷崎潤一郎です(文字にするとややこしいねーー)。傍らで晩年の佐助となった笈田さんが、愛おしく愛おしく春琴を回想していく。その回想は俳優たちにより演じられていく。なのに、私はナレーションの声をナレーションということを忘れ、立石さんの休憩時間になるまで、俳優と人形が演じる『春琴抄』の世界に取り込まれていきました。その世界はため息と涙がこぼれるほど美しい光と闇の世界・・それが『陰影礼賛』でした。サイモンが描きたかったものは『春琴抄』という物語ではなく『陰影礼賛』の『日本』だったんだろうなと私は思いました。
そしてサイドストーリーとしてある、ナレーターのかかえた恋愛事情。かなり年下の恋人と抱えた悩みが休憩時間の電話でわかりました。それは多かれ少なかれ震災後の私たちがかかえていかなかればならない事情と同じでした。
 
初演時のものですが、この方の絵を見ていただければ演出がわかりやすいです〜。http://d.hatena.ne.jp/sdt/20080304
 
3人の佐助のこと。最高のキャスティングでした。足取り軽く帰られる笈田さんに、おつかれさまでしたと声をかけた今まで。千秋楽ということもあり、声をおかけした後、春琴に感動したこと、レクチャーに参加したことなどをお伝えすることが出来ました。嬉しかった〜。