『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』劇評「縮まる戦争との距離」(徳永京子さん)
「右手に不道徳、左手に笑いのナイフを持って、世の中の建前やきれいごとを切り落としては、人間の暗部を舞台上に取り出してきた松尾スズキ。今作で明らかにするのは、人間と戦争の距離だ。物理的にも心理的にも日に日に縮まるその距離を、そこそこ豊かな日本人夫婦を軸に描いた点に新境地がある。」
「登場人物の大半が、美しい大義と美しくない事情を抱え、その折り合いを無理につけるところから滑稽な悲劇が拡大する。大義を持たない少年たちが、内戦が起きると男娼から兵士へと職業を変えるのは、若さを犠牲にする点で、戦争も性ビジネスも同じだから。上昇志向の象徴である椅子の材質も、世界の搾取の構造を映す。」
「夫への愛と仕事に邁進して少しずつ狂っていくミツコ役の寺島、人々の欲望を刺激しながら、善悪の外で強さを身につけていくトーイ役の岡田がいい。また、はしゃがない笑いを貫く岩井秀人が松尾作品に新風を吹かせた。」
鱈々