『いま、ここにある武器』の劇評(徳永京子さん)「からみあう戦争と平和」
「イギリスの劇作家ジョー・ペンホールが2007年に書いた戯曲で、倫理的な責任は棚上げのまま、利潤だけが追求される軍事産業のいびつな実態が克明に描かれる。ビジネス、科学、軍事などの専門用語が頻出ログイン前の続きするが、よく咀嚼された小川絵梨子の翻訳、ユーモアと緊張感の緩急あるテンポをキープする千葉哲也の演出、4人の俳優の好演が、硬いテーマをぐっと身近なものにして飽きさせない。翻訳劇のひとつの理想形だ。」
「ダンはネッドに「お前に子供がいたら、そんな仕事はしない」と説く。だが次のシーンで言葉巧みにネッドに契約を迫るロスは、2児の母だ。これが意味するのは、普遍的な抑止力などもはやないという現実だろう。同じ国籍でそれぞれに家族を思い、自分の仕事に誇りと少々の野心を持って取り組む共通点を持ちながら、彼らの正義はバラバラなのが恐ろしい。」常に誰かが誰かを説得する会話劇でありながら、舞台上には一度もテーブルが出てこない(美術は島次郎)。それは、もう私たちには話し合いの場を設ける余裕すらない表れと読み取った。だから余計に、最後のネッドの言葉が刺さる。」