ほらほらコーヒーが冷めちゃってるよ 2

好きな人に伝えたいことはできる限り直接伝えます。都々逸作っています。浦和レッズと演劇と映画と音楽が大好き! 田島亮(・中嶋将人)、成河、亀田佳明、イキウメと浜田信也。演出家・藤田俊太郎を応援しています。小林賢太郎・片桐仁、ラーメンズは永遠に好き。B'z、BrandonBoyd&Incubus、JasonMraz、大橋トリオ、Eddie Redmayne

日経新聞に舞台「アドルフに告ぐ」レビュー 

神奈川芸術劇場アドルフに告ぐ」 戦争引き起こす暗い情念描く傑作」(内田洋一さん)http://www.nikkei.com/article/DGXMZO87731480V00C15A6000000/
『戦後70年の節目に生まれた重量級の傑作だ。手塚治虫の原作漫画の力に演劇の威力が加わって、場面場面が漫画のコマ以上に胸に迫る。主演、成河(ソンハ)の渾身の演技をたたえよう。憎悪と差別の暗い情念をたどれば、まこと戦争とは人間の心に兆すものではないか。』
『舞台は神戸、ドイツ、さらにはパレスチナと変転し、時代も戦争前夜からナチス崩壊、神戸空襲をへて1970年代まで飛ぶ。ゾルゲ事件リトアニアで行われたユダヤ人救済の史実もまぶされ、盛りだくさん。いきおい駆け足になり、筋を追うのが正直大変。とはいえ木内宏昌の脚本は相当の労作であり、演出や演技との調和を目指す姿勢がいい。原作への畏敬の念がスタッフ、キャストの間に行き渡っていたからこその成果だろう。』
『栗山民也演出は舞台機構を駆使し、素早い転換をはかる。ピアノとヴィオラの楽隊を舞台上手に配し、劇に音楽を沿わせ、時には導き手とさせる。ヒトラーの登場場面で響くワグナーの無限旋律、静寂を切り裂く爆音や銃声(山本浩一音響)、ユダヤ人の魂を思わせる劇中歌(久米大作音楽)などとあいまって、オペラ的な音響のドラマが構築される。音楽的な緩急のリズムを本領とする演出家にとって、目下の集大成といえる舞台だろう。』
ヒトラーは自己を否定するからこそ逆上し、正気を失う。カウフマンは「二流民族」たる日本人の血を嫌悪するからこそ、その否定に走って殺人鬼となる。他者不在の幼児性や女性への屈折した愛が自己破壊衝動となって、おそろしい妄想を現実化させる。カルト宗教やヘイトスピーチの病理から知れるように、人間はひとつ間違えばそうなってしまう。そこに戦争のおそろしさがあるのだ。』
『愛する女性や親しい隣人も、ユダヤという抽象概念でとらえた瞬間、殺してもいいモノと化す。そう思い込むことで自己のコンプレックスを解消する人間の怖さ。最後、パレスチナで因縁の対決をするカウフマンとカミルが至近で銃を撃ち合うシーン。演出はここでリアリズムを超える。音で示されるこの銃撃戦は、劇をしめくくる心象風景でもあろうか。ふたりのアドルフは引き裂かれた半身であり、その闘争が世界戦争の源にあると感じさせるのだ。戦争は心の内側から生じてくる。』
『スタッフワークも、暗い色調の中で精度を増す照明(高見和義)や最小限の美術(松井るみ)がある1点を目指し、練度を上げる。いうまでもなく長編の劇化は難しい。観客の理解力を考えれば、場面の整理はまだ必要だろう。さらに練り直したいところは少なくない。が、豊かな潜在力をもった舞台であることは間違いないだろう。』

内田洋一さんのレビューはいつも愛と相手へのリスペクトがあって好き。扇田さんの劇評も読みたかったなーーーー。