ザ・スズナリヘ。 D列で。
1950年代の光と2040年の闇。
1945年原爆が落とされた終戦から5年、日本は原子力発電所を作ろうと動いていた。日本初の原子炉の臨界を成功させ1957年と対峙させる時代を2011年でも2018年代でもない2040年にしたことで、観客である私たちは「未来」を考えさせられます。2019年以降はフィクションなのにとてもリアルです。
フルハシ アキラ・・実在の人物たちがその名前で登場する。原子力という福島以降誰もの見方がガラリと変わってしまった題材を事実に基づいてここまでエンタメとして演劇できる詩森さんの力量、それを私たちにきちんと伝えられる俳優、スタッフを集められる詩森さんの才能と人柄に敬服するばかり。だから説得力のある舞台になっているんだろうなぁ。
1950年代のアメリカでのシーンはどれもクスッと笑えるものになっている。原子力の可能性を信じ原子炉のことを学ぶために原子力研究所から派遣されたフルハシくんとマツモトくんの場面は可愛い。丸紅のミゾハタさんとワカツキさんの意気揚々と交渉する姿は素敵です。オハラ以外に金髪の外国人を演じるホチキスの児玉久仁子さんの存在も大きい。あ、この舞台の見方を教えてくれる粋な前説も児玉さん。
高度成長期に入っていく1950年代、夢と希望に大志を抱いた原子力研究所のルーキー、でも学生っぽさが抜けていない可愛らしいフルハシ(キャッキャする場面はきゅんポイントです)と、2040年の本音が見えない時折冷たい顔を見せる内閣府再生可能エネルギー対策本部所属のドライなフルハシの二役を行ったり来たりする田島亮くんの演技がとてもいいのです。もちろん血の繋がりはない*のだけれど、この二人が同化するラスト、一方は希望に満ちていて、もう一方は人に課せられたこの舞台のテーマが落とされていて、胸にズシンと来て言葉を失う私がいます。(*登場人物13人のうち9人が、1950年代と2040年で同じ名前で出てきますが、血縁関係はない役です)
でも笑えるところもたくさん!モブキャラたちの活躍が楽しいので、とても観やすいです。
田島亮くんのことばかり書いていますが、全員すごいんですよ。
それとやっぱり今回の美術はハンパないです。透明なアクリル板の下に水が流れている、あの上に立つ浮遊感もハンパないでしょうね。
今回の2040年のセリフはデータに基づいた上での想像になると思うけれど、それ以外に嘘はないと。もちろん、元になる資料が違っていたら仕方ないけれど。だから、実在の人物の名前、社名もあえて使用したんだろうな、ろばさん。ものすごい覚悟を持って作っています。
1957年08月27日の新聞「午前5時23分、茨城県東海村の日本原子力研究所第1号実験炉が臨界点に達し、わが国初の「原子の火」がともった。」 http://showa.mainichi.jp/news/1957/08/post-a59b.html
「静まりかえった部屋に、カチカチという音が響く。炉心で発生する中性子の数をガイガーカウンターが測定する音だ。」http://www.asahi.com/area/ibaraki/articles/MTW20120122081170001.html
↑ この音が聞こえはじめてから数秒間、緊張と複雑な思いが自分の中に溢れて、みぞおちあたりがキューっと捕まれる。
キャラメルボックスの岡田達也さん、ラッパ屋の福本伸一さんをはじめ、詩森組の実力ある素晴らしい俳優さんたちのセンターに主役として立っている田島亮くんの頼もしいこと!全員が信頼してくれている、亮ちゃんもみんなを信用している。亮ちゃんとserial numberの本当のスタートに立ち会えて嬉しい。
詩森ろばさんは、観劇女子(あえて女子と言います😊)が、俳優をどういう観せ方をするときゅん😍とするかもわかってくれているのですよ。風琴工房時代から。だから難しい内容のお芝居でも、とても観やすい。
『アトムが来た日』のパンフレットの詩森さんのインタビューに
「彼には次の時間を残さなきゃならない」とあった。
田島亮くんとの出会いでろばさんは未来の時間を前より考えるようになり、亮くんはこんなふうに思ってもらえて幸せだなぁって思う。神様、2人の出会いに感謝します🙏
今日、友だちに撮ってもらった写真の自分が信じられないくらい乙女の顔になっていて、このときの数秒間の体温を、永遠に体に刻みたい!と本気で思った私。
メリー クリスマス!